百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。
「疲れた男のユートピア」(J.L.ボルヘス著/鼓直訳)より

2017年8月30日水曜日

校了

昨日、念校のチェック箇所の反映を確認して、校了。もうこの後、私にできることはなく、(本当に出版されるなら)出版を待つだけなので、シャンパンで自分にお疲れ様。

測度論、(ルベーグ)積分論、測度論的確率論の初歩のあたりをカバーする入門的教科書なのだが、このジャンルには(読者の少なさのわりには)既に、沢山の本が出版されている。さすがに、もう十分なのではないか、という気もする。私自身、定番的な教科書二冊(Williams, Capinski-Kopp)に共訳者として携わったので、訳書も含めればこれが三冊目だ。

しかし、最近、数学以外の分野の学習者から、現代的な確率論の基礎を学びたい、測度論を知りたい、と言う声を良く聞くわりには、非専門家向けの適当な教科書がないのではないか、と出版社の方がおっしゃるので、まあそう言えなくもないかなあ、とその気にさせられたわけである。主旨としては、数学が専門ではない理工系の読者を対象に(面倒な証明は省略可能)、コンパクトに必要事項をまとめ(全体で 160 ページ以内)、しかも、なぜそう考えるのかは親切に説明する(前の要請と対立するが)、という感じ。

先日、知り合いの方とお話していたときに、近頃出版された T.タオの本の話題から、測度論の教科書の話になった。どうやら最近、測度論がはやっているのではないか。ここでさらにもう一冊出すのは「駄目押し」って感じですね、などと笑ったのだが、実際、本来の囲碁の意味で駄目を置いただけにならないか、ちょっと不安。