百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。
「疲れた男のユートピア」(J.L.ボルヘス著/鼓直訳)より

2017年7月8日土曜日

「烈風」

胡瓜とハムのサンドウィッチと白ワインの夕食を食べながら、「烈風」(D.フランシス著/菊池光/ハヤカワ文庫)を読み始める。

残りわずか数冊の未読フランシス本の一冊。相変わらず、職業が異なるだけで本質的に全く同じ主人公(賢く、礼儀正しく、廉潔で、どこまでも忍耐強い)を用いてマンネリズムを貫いている。それでもその枠内で手を変え品を変え、高水準のサスペンスを書き続けたところが偉い。

この「烈風」の主人公は気象予報士。競馬にとって天気は重要な因子だろうから、競馬シリーズ第 37 作目にして、なるほどその手があったか、の感。私の知る限り(そして記憶が確かならば)、本シリーズで博士号を持つ唯一の主人公では。いや、医者か獣医がいたような、いなかったような。