百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。
「疲れた男のユートピア」(J.L.ボルヘス著/鼓直訳)より

2017年7月19日水曜日

要点

「ほかに何か話したいことがありますか」
「要点はそれだけです」
「ああ、よかった」と、彼はいった。「わたしは七十五歳で、いま二百十四点目の絵を描いているところなんでしてね。もしわたしが他人の問題に気をとられるのを防止しなければ、わたしはその絵を完成させることができないかもしれない。ですから、これで電話を切ることにしますよ。ミスター — ま、あんたの名前なんかどうでもいいや」
「ブルー・ハンマー」(R.マクドナルド著/高橋豊訳/ハヤカワ・ミステリ文庫) より