百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。
「疲れた男のユートピア」(J.L.ボルヘス著/鼓直訳)より

2017年7月18日火曜日

悲劇

「エレナ、人生は、あらゆる悲劇の母……いやむしろ、悲劇のマトリョーシカだよ。大きな人形を開けると、小さな悲劇が入っていて、その中にももっと小さな悲劇が……。究極的には、それが人生をおかしく見せるんだ」
「人生は美しい悲劇にもなりうるわ」
ジョナサンはうなずいた。「正しく解釈すればね」
「[時間SF傑作選] ここがウィネトカなら、きみはジュディ」(大森望編/ハヤカワ文庫)所収、「彼らの生涯の最愛の時」(I.ワトソン&R.クアリア著/大森望訳)より