百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。
「疲れた男のユートピア」(J.L.ボルヘス著/鼓直訳)より

2017年5月22日月曜日

失われた本を求めて

裏長屋の隠居とは言え、あまり家に籠っていては身体に悪いかなと思い、外出。近所のインド料理屋でランチを済ませてから、日本橋に映画「メッセージ」を観に行く。テッド・チャンの短篇「あなたの人生の物語」の映像化。そのあと、神保町に行って、古書店巡りと珈琲屋での一服。

古書店で思いがけない本を見つけて、文字通り小躍りしてしまった。私が中学生の頃、ミステリ小説の愛好家だった叔父から譲り受けた中にあったもので、ミステリと SF の世界への道案内をしてくれた思い出深い一冊である。しかし、いつの間にか紛失してしまった。

遠い昔のことなので、タイトルも著者も忘れてしまい、ミステリと SF の両方をテーマ毎に面白おかしく紹介している、日本人の SF 作家が書いている、文庫本である、くらいの記憶しか残っていない。もちろん、今ではインタネットで小一時間も検索すれば判明するのだろうが、いつか偶然に古本屋の軒先の百円均一棚で見つけることもあるだろう、と再会を楽しみにしていたのである。

そして今日、百円均一棚ではなかったが、古書店の棚に発見。背中を見たとたんに、「もしやこれでは!」とビリッと来た。そして、手にとると確かに見覚えのある表紙。それは「夢探偵」(石川喬司著/講談社文庫/「SF・ミステリおもろ大百科」(早川書房)の改題)であった。